「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」について

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自然農学習

知り合いの方から畑の一画をお借りして、「自然農」での家庭菜園を楽しんでいます。


さて、環境にやさしい「自然農法」や「自然農」ですが、これらはいずれも日本で個人の方々が提唱されているボトムアップの取り組みであり、いかにも日本的な小規模農業のスタイルです。
つまり「日本国内」に限定された、しかも「草の根レベル」の活動というイメージです。

ところで、環境問題は全世界共通の課題です。
環境問題に対する意識の高い欧米などでは、このような類似の取り組みは行われていないのか、気になりました。
そこで少し調べてみたところ、「リジェネラティブ農業(環境再生型農業)」というキーワードを見つけました。

「リジェネラティブ農業」について書かれた書籍などがないか探したところ、NHK出版の「土を育てる」という本がありました。


また、アウトドアブランドの「パタゴニア」は、「リジェネラティブ農業」に積極的に関わっているようで、さまざまな情報を発信しています(たとえば こちら)。

ここでは、これらの情報より「リジェネラティブ農業」について私なりに理解した内容を、簡単にまとめておきたいと思います。

背景

「土壌」は「大気」の2倍、「陸上植生」の3倍の炭素貯蔵能力を持っているとのことで、巨大な「炭素貯蔵庫」です。
つまり、二酸化炭素による「地球温暖化」への対策として、「土壌」を適切に利用することは大きなポテンシャルがあります。

この「土壌」についてですが、実は地球上の陸地の3割が「農業」による土地利用に占められているそうです(日本では国土の12%が農地)。
このことより、農業における土地の使い方が、「地球温暖化」にも大きな影響を与えるということになります。

これに対し、現代の「工業型農業」は、「総炭素排出量」の25%、「淡水使用量」の70%、「生物多様性の損失」の60%を占めており、非常に環境に対する負荷が高くなっています。
現状のままでは、「グローバルフードシステム」の温室効果ガス排出量だけでも、パリ協定の「+1.5度目標」は達成できないそうです。
一方、世界中のすべての農地が、後に述べる「リジェネラティブ農業」に移行すれば、世界中の毎年の二酸化炭素排出量よりも多い量の炭素を土壌中に隔離できると試算されているそうです。

実際に欧米では、大気中の二酸化炭素を土壌に取り込むことで、温室効果ガスの排出を削減しようとする「カーボンファーミング」に関し、既にさまざまな取り組みが進められており、その手段として「リジェネラティブ農業」が注目されているようです。

リジェネラティブ農業とは

植物は、光合成により、大気中の二酸化炭素と地中の養分から有機物をつくります。
つくられた有機物は、植物自身になる訳ですが、一部は根の先端部から漏れ出し、それが地中にいる微生物の餌になります。
微生物は植物の根から漏れ出した有機物を食べ、養分をつくります。

「リジェネラティブ農業」では、この「生きた植物の根から漏れ出す有機物」に着目している点がミソです。

従来型の「慣行農業」では、畑に直接肥料(養分)をまいて作物を育てます。そのため作物の生育において微生物や地中の有機物は関与しません。
農薬散布などによって地中の微生物が死んでしまうため、土はどんどん悪くなります。

それに対し「有機農業」では、畑に堆肥などの有機物をまいて作物を育てます。地中では微生物が有機物を分解して養分をつくります。
微生物が働くため、土は健全な状態に保たれます。
ただし、養分の元となる有機物自体は外から与えています。有機物を自ら生み出している訳ではないため、「有機農業」によって土が悪くなるのを抑えることはできますが、土をより良い状態に回復させることはできません。外から与えた有機物は、最終的には二酸化炭素として大気中に放出されます。

「リジェネラティブ農業」では、生きた植物が生み出す有機物をつかって作物を育てます。植物が有機物をつくり、それを使って微生物が養分をつくり、それを使って植物が有機物をつくるという循環を繰り返すことで、土をより良い状態に回復させることができます。

「リジェネラティブ農業」では、できるだけ多くの種類の植物を常に育てておき、多様性を高めることで、上記の循環を活発にし、土を健全な状態に回復させます。

リジェネラティブ農業の原則

不耕起

土をかきまぜると、土壌の構造が乱れ、微生物の棲家に影響を与えます。表土の流出も起こりやすくなります。
土をできるだけかきまぜないようにすることで、土壌が水分と有機物を保持し、より多くの炭素を隔離できるようになります。

被覆作物(土を覆う)

主作物に加えて被覆作物も育てることで、地中の有機物を増やすことができます。土壌生物の餌や棲家にもなります。
土を覆うことで、土壌の侵食を減らし、風や水による表土の流出から守られます。水分の蒸発も抑えられます。
雑草の発芽を抑えることもできます。

多様性を高める(輪作、間作)

作物の種類や場所を周期的に変えたり、複数種類の作物を密接に植えたりすることにより、生態系の機能が強化され、収穫高と土壌の健康を徐々に向上させることができます。

土の中に「生きた根」を保つ

植物の生きた根から漏れ出す有機物によって、微生物は養分を供給します。
また、土の保水力を高める唯一の方法は有機物を増やすことであり、また地中の有機物の2/3は根だとのことです。土の保水力という観点からも土の中に根があることが重要になります。

動物を組み込む

現在の農業では、作物の生産と畜産は分離されていますが、これらを同じ場所で行えば、家畜が植物を食べることで植物が刺激され、土により多くの炭素を送り込まれるようになります。
養分の循環が促され、より多くの炭素を地中に固定できるので気候変動の面からもメリットが大きくなります。
また、家畜だけでなく、花粉を運ぶ虫や鳥、捕食動物、ミミズ、微生物などにも棲家を提供することで、多様性が高まります。

上記に加え、「オーガニック農法(合成殺虫剤、合成肥料、遺伝子組み換え技術、抗生物質、成長ホルモンを使用しない)」や「コンポスト(農業廃棄物を堆肥に変える)」も提案されています。

土壌は以下の層から構成されています。

  • A層位(地表から5〜45センチ):表土。さまざまな土壌生物が住み、活動している。
  • B層位(その下50センチ):有機物や微生物はA層位より少ないが、植物の根が張ってくれば、時間と共にA層位の続きに変わってくる。
  • C層位(その下):分解されていない荒い岩など。

表土が流出するとは、「A層位」が流出することです。土をよみがえらせるとは「B層位」を「A層位」にすることです。
また、土の健康の原動力は、生きた植物の根から漏れ出す「土壌炭素(有機物)」です。有機物は微生物の餌になり、微生物は土を団粒化して安定させ、通気性、浸透性、保水性を高めます。

つまり土の健康にとっては、表土が流出しないようにすることと、植物の根を深く(B層位まで)張らせることが大切で、そのために上記の5つの原則が示されています。
地球の表土15センチが地球上の生命を支えているとのことで、これらの原則がとても大切になります。

まとめ

「リジェネラティブ農業」は、炭素を土の中に閉じ込めることにより「気候変動問題」の対策になる他、「生態系を回復」し、「農業の衰退」「食糧危機」「環境破壊」などの対策にもなり得ます。

その手段は、土地にできるだけ多様な植物(動物も)を常に育てておくこと、つまり「できるだけ自然に近い環境」を維持しておくということになります。
畑に多様な植物が生えていると、益虫の増加や植物自体の生理学的な変化により、害虫の影響も抑制されるようになるそうです。

「リジェネラティブ農業」は農園のみでなく、家庭菜園やガーデニングに至るまで適用可能な考え方とのことです。
「自然農」と比較すると、取り組み方に若干の違いはありますが、コンセプトとしては全く同じだということがわかりました。