兵庫県川西市にある環境啓発施設「ゆめほたる」にて、2021年3月13日に開催された「獣害対策セミナー」に参加してきました。
朝9時半から夕方5時まで、さまざまな分野の専門家の方々の講演や実地指導などが行われ、非常に盛りだくさんの内容でした。
ここでは、午前中に行われた3名の方々の講演内容を簡単にまとめておきます。
兵庫県における獣害の現状(兵庫県森林動物研究センター 大田氏)
- 兵庫県は獣害の被害額が全国4位。
- 被害の40%がイノシシで、被害額は1.8億円。続いてシカが26%で1.2億円、アライグマが11%で0.5億円。
- 長期的に見れば、被害額は減少傾向だが、イノシシに限ると横ばい。
- 林業よりも農業の被害が多い。
- イノシシによる被害はイネが8割(イノシシは根が好き。土をほじくってミミズなども食べる)。イノシシは県内全域に広く分布している。
- シカによる被害はイネが6割、マメが2割。シカも都市部を除いて県内全域に広く分布している。
- アライグマによる被害は果樹が4割、野菜が6割。アライグマは飼育されていたものが放されて繁殖しているため、都市部近郊に分布している。
- 川西市に限ると、イノシシ、アライグマは市内全域で被害が生じているが、シカは県境部のみに被害が集中している。
- 「山に人が入らない」「集落から人が減っている」「集落と山の境界部の手入れが行き届かない」ことにより、野生動物の生息領域が広がり、獣害被害が増えている。
- 獣害を減らすためには「エサをなくす」「囲い込む(寄せ付けない)」「居心地を悪くする」「追い払う」「捕獲する」の組み合わせが必要。集落を「居心地がわるく」「エサが少ない」場所にする。
自動撮影カメラが捉えた施設内の野生動物の生息状況(兵庫県立大学/兵庫県森林動物研究センター 高木氏)
- 全国的に野生動物が増加している(シカの分布域は1970年代から2014年で2.5倍に)。
- もともと動物は多く生息していたが、明治から昭和にかけての乱獲や木材の伐採などに伴う環境悪化により減少。
- シカは1970年代には山間部のみに生息しており、減少傾向だった。昭和中期からの保護措置(禁猟が長く続けられた)により、昭和後期以降増加した。現在は県内全域に分布し、分布域は2倍になった。
- イノシシはもともと県内に広く分布していたが、近年さらに分布域が広がっている。
- アライグマは2004年には阪神エリア付近のみに生息していたが、2018年には県内ほぼ全域に広がっている。
- ハクビシンはもともと但馬地方のみに生息していたが、近年は県内全域に広がっている。
- 野生動物は発見率が低く、全ての個体の観察は不可能。よって「ふん」など何らかの相関する指標から生息数を推定している。
- 近年では、カメラによる撮影頻度などから生息数を推定する方法が一般的になってきている。
- カメラを活用することで「動物の種類」「何をしているか」「生息数(撮影回数と移動速度から計算)」「繁殖状況」「社会構造」「利用環境(どうやって柵を破るか)」「獣害対策の効果」などがわかる。
- 「ゆめほたる」の裏山に2年にわたりカメラを設置して調査。その結果「ゆめほたる」ではシカが圧倒的に多いことが判明した(1km2あたり50〜60頭で、非常に高密度)。
- 捕獲されず、山の中のエサが多い(落ち葉など)、山の外にもエサが多い(撮影結果より、夜間は山の外に出ている模様)のが原因と考えられる。
- 絶対数が少なくても、生息密度が高いと植物などの生態系への影響が大きい。シカが下草を食べることで、「急斜面」「木が少ない場所」での土壌の流出が深刻になっている。
- シカ以外にも、さまざまな哺乳類や鳥類が生息している。外来種(アライグマ、ハクビシン)も繁殖している(アライグマは他地域よりやや多い)。
- シカは、県全域で見ると対策が進んでおり、最近は高密度地域は減少してきている。ただし、もともとあまり生息しておらず、最近増加してきた場所については、対策がなされておらず、生息密度が上昇してきている。
- 川西市特有の問題として、獣害対策は府県単位で実施されるため、県境部ではひとつの府県で対策を実施しても鹿が移動してしまい、効果が限定される。
「さともん」における獣害対策についての活動や実績について(NPO法人 里地里山問題研究所 鈴木氏)
- 「NPO法人 里地里山問題研究所(さともん)」は丹波篠山市で活動。
- 「さともん」では「獣害対策」と「高齢化/人口減少対策(地域活性化)」をセットにした活動を行っている。
- 丹波篠山市ではニホンザルによる被害が多かったが、最近は「さともん」の活動の効果もあり対策が進んできている。
- 獣害の「対策」は存在するが、多くの場所では「実践」ができていない。「情報が伝わっていないこと」と「労力/モチベーション不足」が原因。
- 動物は、里に来て一度エサを食べると、それを覚えて続けて来てしまう。その個体自体が問題となるので、山の中で任意の個体を捕獲(個体調整)しても意味がない。
- 一番の獣害対策は防護柵。ただし点検作業をこまめに実施しなければならない(動物に破られるため)。人手不足のため難しい。
- 対策実施の主体は行政(市町村)だが、専門的な知識や人材がないため「中間支援(研究機関、大学、実施隊、民間団体)」の存在が重要となる。
- 「さともん」は中間支援として支援者(ボランティア、コミュニティビジネス)を呼び込んでくる活動を行っている。
- 人手として「都市部人材」「地域内人材(高校生など)」を活用し、「がんばっている地域」を支援する。
- 支援者も、支援を通じて地域の宝を享受する(黒豆などの農産物、定期的なイベントへの参加、さらに活動したい人は農作業やボランティア活動にも参加)。
- 支援者に農村の価値に気づいてもらい、農村住民と顔の見えるつながりをつくり、関係人口を増やす。
- 最終目標は子育て世代の移住。現時点では来訪者やリピーター(関係人口)の増加を目指している。
- 地域の人には指導役になってもらい、作業自体は「さともん」スタッフとボランティア(常時20名程度)が主体的に対応している。
- 「さともん」は「繋ぎ手」。行政は縦割り(獣害のみ、祭りのみ…)のため、その間を取り持ち、最終的には地域を元気にする(農家、地域住民などの「受苦者」に利益が還元される仕組みをつくる)のが目標。
私が主に活動している兵庫県川西市北部は、
- 都市部と農村部のはざまにある「都市近郊部」であり、このような地域は野生動物が増加傾向にあるが、行政などの対応が手薄になっている。
- 獣害対策は自治体単位で実施されることが多いが、大阪府との県境部に位置するため、府県単位の対策では効果が限定される。
- 県境部に山塊があるため、対策がさらに難しい。
といった特徴があるようです。
対策としては防護柵の設置の他、集落や里山の手入れが重要なようですが、いずれも人手がかかるものであり、継続的に実施するのはなかなか難しそうです。