農業における獣害について

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獣害対策

兵庫県川西市の里山地域に「ゆめほたる」という環境啓発施設があります。

「ゆめほたる」では、さまざまな活動を行っているのですが、その中に「環境科学技術クラブ」というものがあります。
私は、そのクラブに定期的に参加しており、そこで色々な活動を行っています。

さて、日本全国どこでも似たようなものだと思いますが、「ゆめほたる」周辺でも、シカやイノシシが大変多く出没するそうで、近隣の農家の方々は獣害に大変困っておられます(「ゆめほたる」周辺に生息する動物に関するブログ)。

「環境科学技術クラブ」でも、身近な獣害に対し、何かできることがないか考えており、今年から少しずつ取り組みを始めようとしています。

活動はこれからスタートするところですが、私自身は、これまで農業とは全く関わりもなく、獣害に関する知識も皆無なので、事前に書籍で少し勉強することにしました。

書籍は何冊か読みましたが、最も分かりやすかったのは以下の本です。


ここでは、この本を参考にして、獣害に関する基礎知識をまとめておきます

現状把握

動物は山で増えているのではない

よく「山の中で動物のエサがなくなってきたから、動物が里に下りてきた」というような話を聞きますが、これは誤りだそうです。
動物は山の中で増えているのではなく、もとも集落の近くで生息しており、それが集落近くでどんどん増えているのだそうです。

人間が動物に餌付けをしている

なぜ、集落の近くで動物がどんどん増えるかというと、人間が動物に「餌付け」をしているからです。
山の中よりも集落の方が、おいしいエサがたくさんあるため、集落近くで動物がどんどん増えてしまいます。
「農作物が被害にあった」というのは、逆から見れば「動物の餌付けに成功した」ということになってしまいます。
「餌付け」というのは、人間が動物に対して、「エサの準備」と「人慣れ学習」をしてあげることです。

エサの準備について

コメ

最近の主要銘柄は「コシヒカリ」ですが、栽培品種をコシヒカリに変えたことで、稲刈りの時期が昔より50日早くなったそうです。
まだ暖かい時期に稲刈りを行うため、「ひこばえ(稲の切り株から生える新芽)」が、10aあたり100kgも発生します。
また、稲刈りが終わっても、まだまだ暖かい日が続くので、田んぼに10aあたり300kgの雑草が生えます。
稲刈りとあわせて、畦も草刈りをするケースが多いそうで、畦の草刈りによって10aあたり400kgの青草が生えます。

つまり、栽培品種をコシヒカリに変えたことで、あわせて10aあたり800kgのエサが発生します。これは、270匹のシカの1日分の食料に相当します。

ここで注意しなければいけないのは、これらの雑草を動物に食べられても、誰も「獣害」と認識しない点です。このような雑草を好きなだけ、動物に食べさせているため、動物がどんどん増えてしまうのだそうです。

野菜

キャベツは、10aあたり収穫量は3t程度だそうですが、それに対し外葉が2.5t発生します。これをほったらかしにしておくため、これも動物のエサになります。
植えるだけ植えて、収穫放棄する野菜もあります。「できの悪いもの」の他にも、「作付けだけ」すると補助金がもらえるケースもあるそうで、そのため収穫放棄が生じるそうです。
取り残した野菜、自家菜園の食べきれない野菜、種芋のあまり、摘果した果物、庭に植えている木になった果物、古いホダ木から生えたしいたけ、これらも全て、動物のエサになります。

農作物以外

雑草なども、動物にとっては山の中よりも良い食料になるそうです。
堤防に生えている草、林道ののり面には牧草の種子を吹き付けているそうで、そこで生える草(農道、河川、森林公園、送電線設備なども同様)、剪定した木の枝の若芽、タケノコ(イノシシは、3〜7月はほとんどタケノコばかり食べている)などは、全て動物のエサになります。

雑草については、特に「冬」の対処が重要です。
春から秋にかけては、山の中にもエサはありますが、里のエサの方が「おいしい」ため、動物は里に下りてきます。
それに対して冬は、山の中にエサがほとんどないため、動物は「他に選択肢はなく」里に下りてきます。
10月に稲刈りをするせいで、田んぼには真冬に青々とした雑草が生えており、道路ののり面などは、そもそも年中、青々としています。これらが、冬の間の動物のエサになります。

人慣れ学習について

人間は、動物が「農作物」を食べていると怒り、威嚇したり追い払ったりしますが、「雑草」や「廃棄野菜」を食べていても怒りません。
しかし、動物にとっては、「農作物」と「雑草」の区別はなく、怒られたり怒られなかったりする違いの意味が理解できません。
「雑草」を食べていても怒られないため、人間のことを安全だと思ってしまいます。

動物は、道端で雑草を食べていても怒られないため、隣にある畑にも入ります。畑に入ると人間に怒られますが、人間は動きが遅いので簡単に逃げることができます。これを何度も繰り返し学習することで、人に慣れ、人をナメるようになってしまいます。

畑のまわりに柵を作ると、その奥に人間が行きにくくなってしまい、さらに動物が集落に近づきやすくなります。また、山際に果樹の木を植えているので、山→果樹の木→畑と、動物にとっては侵入しやすく、逃げやすい動線ができています。

このように、動物が人間の近くにいて、人間に慣れてしまうため、農作物の被害が増えてしまうそうです。

対策

動物に対して何かの対策をするのではなく、集落の環境自体を変えるのが重要だそうです。
その際には、農作物の被害に着目するのではなく、起きている現象そのものに着目するのが肝心です。
つまり、動物に食べられて困るものでも困らないものでも、動物にとっては同じなので、そもそも動物が食べるものをなくすような取り組みが必要になります。

また、対策を行う際は、一部の人だけが頑張るのでは逆効果で、農業従事者以外の人も含め、集落全員の意識合わせが重要だそうです。
そもそも農地は、お年寄りでも作業しやすいように整備しておくと、獣害対策としても効果があるとのことです。踏み台や脚立は不要な状態にし、畦は広く歩きやすくしておけば、人間が動きやすい場所は、すなわち動物が入りにくい場所となり、獣害を減らすことができます。

柵については、業者に大掛かりなものを設置してもらうのではなく、自分たちで簡単に作れて、自分たちで改良できるものを設置するのがよいそうです。
獣害は地域によって事情が違うので、当事者が被害状況を見ながら、自分たちで随時バージョンアップしていくのが大切とのことです。