里山における獣害対策セミナーを受講

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獣害対策

地域のNPO法人が開催した「獣害対策セミナー」に参加してきました。

このNPO法人では、環境保全のため、地域の里山(台場クヌギの群生林)を取得し、その山林の維持・管理を実施しておられます。
数ヶ月前には、地域の名産である「菊炭」づくりに使うために、その山林のクヌギを伐採し、現在は、その跡から新たな芽が萌芽してきているのですが、この辺りではシカが大量に発生しており、クヌギの芽がシカに食べられ、クヌギが育たなくなってしまうのではないか?と心配しておられます。

そんな訳で、今回、獣害対策が専門の大学の先生をお招きして、対策についてアドバイスしていただくことになったようです。

台場クヌギについて

台場クヌギとは、炭焼きの材料にするため、約10年ごとに、地上から1〜2メートルのところで伸びた枝(萌芽枝)を伐採し、それを繰り返すことで、土台となる主幹がずんぐりと太くなったクヌギの木です。
つまり、10年ごとに伐採を続けていなければ、台場クヌギの群生林を残すことはできず、山林が放置されるようになってしまった現代においては、とても貴重なもののようです。

なお、台場クヌギが生まれた理由は良くわかっていないようですが、

  • 地表から萌芽するより、台からの萌芽幹の方が、生育が早い。
  • 台からの萌芽のため、地表から生育する雑草、雑木に対し、日照をめぐる競争で勝る。
  • シカの食害を受けにくい。
  • 台が大きくなって目立つので、境界木として利用できる。
  • 萌芽幹が高い位置にあるので、狭い土地の有効利用できる。

などが考えられるとのことです。

ちなみに、台場クヌギをはじめとする薪炭林施業に関する研究は、1950年代以降、完全になくなってしまい、現在では、薪炭林に関する知見は全く残っていないそうです。

シカによる食害対策について

まず、「最近はシカやイノシシが増えて、獣害がひどくなった」とよく言われますが、実は、野生動物が少なかったのは、戦後の数十年間だけで、長い歴史の中で見れば、現在の状況の方が普通なのだそうです。そのため、昔の価値観だけで、獣害対策をうまく進めることはできず、現代にあった、野生動物との新しい付き合い方が必要とのことです。

つまり、20世紀には、「自然=資源」と考えられてきましたが、21世紀には「自然=環境」と考え、野生動物とも賢明な共存を図っていくことが大切なのだそうです。

獣害対策のためには、シカが侵入できないように柵を設置することになりますが、こうした前提の元で、どのような範囲をどのように守るか?をよく考えることが重要とのことです。
シカが絶対入ってこれないようにするのか?、その範囲は?、ある程度の被害は許容するのか?など、柵設置にかかる費用面のことも考えて検討することになります。
シカを防ぐ防護技術はほぼ確立されており、山でも実用的な防護柵は既に存在しているそうです。

なお、シカは下草(笹など)も食べてくれるので、シカよけの柵を設置したことで、逆に雑草刈りの負担が増えてしまったという例もあるそうです。

次にシカについてですが、シカが最も食べやすい高さは地上から20cm〜80cmで、110cmを超えると食べにくくなるそうです。
ただし、木に足をかけることで、2mぐらいまで食べることができます。
また、太さ5cmぐらいまでの枝を折って、その先の葉を食べることもあるそうです。

現地見学

座学のあと、実際に現地に見学に行きました。

台場クヌギ群生林に入ってみると、少し離れたところにシカが何頭もいて、びっくりしました。

普段過ごしている場所からこんなに近くに、こんなに普通にたくさんのシカがいることが実感でき、獣害対策や、野生動物との共生の問題に取り組むことの重要性を再認識できました。
人もめったに入ってこない環境で、確かに野生動物にとっては天国なのかもしれません。

肝心のクヌギですが、数ヶ月前に伐採した跡から、たくさんの新しい枝が出ています。
新芽は人間が見てもやわらかそうで、いかにもシカが食べそうです。
ただ、一部でシカに食べられた跡もありましたが、全体的に見ると、そんなにシカに食べられている感じでもなく、順調に育っているように見えました。
クヌギの伐採が、かなり高いところ(地上から1.5〜2mぐらい?)で行われており、シカが食べにくいのではないか?という感じです。

また、雑草もそれほど繁っていませんでした。シカが食べてくれているおかげかもしれません。

素人目には、とても良い感じに整っているように見えました。

まとめ

先生の見解としても、現状は良い状態に保たれており、シカよけの対策などは不要ではないか?とのことでした。
ただ、雑草が減ってしまう冬場にどうなるか?など、今後も継続観察は必要とのことです。

萌芽枝を高い位置で伐採するのは、作業的にも負荷が高いようですが、伐採する方が、そのような努力をしてくれているおかげで、良好な状態が保たれているようです。
地域の方々のさまざまな努力によって、地域の環境が守られていることを実感できました。

少し離れた場所から台場クヌギ林を見ると、こんな感じです。